がんばるほど売れなかった。作りたいものと欲しいもの ズレていた22歳の話(マーケティングにまつわる昔ばなし)

「なんで買ってくれないんだろう?」

と不満を覚えていました。ボクが22歳、食品スーパーに新卒で入社した頃の話です。がんばって「うまくできた!」と思っても全然売れない…。むしろがんばるほど逆効果。「なんで?」と疑問よりも不満や怒りを覚えてしまう状況がありました。そして隣を見ると売れているものある。ボクは頑張る方向がズレていたのです。

食品スーパーに入社しての研修期間。鮮魚部門に配属され一生懸命に仕事を覚えようとしていました。しばらく経つと「アジのお刺身」を担当させてもらえるようになりました。アジは安価で量をこなす魚であり、処理も難しくないので新人が担当しやすい魚だったのだと思います。


3枚卸おろし。お刺身。チーフから包丁の使い方を習う

まずは3枚おろしから。毎日何十尾ではおさまらず100尾単位でアジをさばきました。さすがに量をこなすと少しずつうまくなります。しばらくするとそれまではチーフや先輩社員がやっていた「お刺身」も少しずつ任せてもらえるようになりました。チーフからは「こうやって包丁を使うと、刺身が立つんだぞ!」と教わりながらすごく楽しい仕事でした。魚を3枚におろす・お刺身を作るなんて、それまでの人生でやったことがありませんでしたし、数をこなすごとに確実に上達するので楽しかったのです(ホント楽しかったなぁ…しんどかったのは魚の匂いが取れないことですかね。帰りの電車内で席に座ったら隣の人がどこかへ行っちゃいました(>_<)すんません)


先輩から、小技を習いあじをしめる

またしばらくすると、先輩社員がちょっとした小技を教えてくれました。アジのお刺身の切り方と並べ方をちょっと変えることで「まるでお花が咲いているように」見せる(並べる)技です。「わ!すごい!きれいです!」だなんてボクは興奮いていました。そしてその作り方を習って自分でもチャレンジしてみる。そして店頭に並べるとあまり売れない…。「まだ先輩ほどキレイにできないからなぁ…」としょんぼりはするけど、22歳のボクは上達を目指します。

キレイに見せる技にあじをしめたボクは「もっとキレイに作れるようになるぞ!」と意気込みます。毎日のように、花のようなアジのお刺身を作っては店頭に並べました。でも…思うように売れていかない…。「もっとキレイに作らなきゃ」でも売れない…。頑張るほどに売れ残りができてしまう状況でした(当時は悔しかったんですが、今思うと申し訳ないです)。

「こんなにキレイに作ったアジのお刺身なのに、どうして買ってくれないんだろう?」とお客さまを観察していると、気づいたんです。


お客さまが欲しいものと、ボクが作りたいものはズレていた。

店頭にお刺身を並べながら、お客さまにもおすすめしました。「アジのお刺身、いかがですか?」ってボクが作ったお花のお刺身をおすすめしたり。買って下さる方もいたと記憶していますが、それはお客さまが欲しかったというよりは「若いスタッフが一生懸命頑張ってるから」買って下さったんじゃないかと今は思います。

だまって売り場を見ているとアジのお刺身自体は売れているんです。安価で量もありますからね。でも「キレイに盛られたお花のアジ刺身」はあまり売れないんです。普通に切られて、普通に並べられたアジのお刺身の方が断然売れている。ハッとなりました。

 

お客さまは、花のようにキレイに盛られたお刺身が欲しいんじゃない。ただ、アジのお刺身が食べたいんだ。

ぼくが作りたかったものと、お客さまが欲しかったものは違ったんだ。

 

受け入れたくないけど、目の前の現実がそう物語っていました。ボクは受け入れたくない現実を受け入れるしかありませんでした。お客さまの頭の中にあるアジのお刺身のイメージ図が普通のものであったこと、アジのお刺身はハレの品ではなく日常品なのでキレイさを求められていないこと、普通のものの方が量や数が分かりやすかったこと、花のように盛り付けたものは「手で細工している感」が購入を遠ざけている可能性があったことなど、要因は1つではないと思います。ただ、アジのお刺身は「キレイな花のように盛り付けたもの」よりも「普通に盛り付けたもの」の方が断然売れていた。それが事実でした。

 


作りたいものを売るか、お客さまが欲しいものを提供するか。

その事実を受け入れた後は、普通のお刺身を多く作るようになったので売れ行きに問題もなくなったと記憶しています。チーフや先輩はきっと分かっていたんだと思います。「あいつもやってるよ、いつ気づくかな」って。頭ごなしに言われるよりも実感を持って教わったのでハッキリとした気づきになりました。犠牲になったアジたちには申し訳ない…。

 

「作りたいものを売るか。お客さまが欲しいものを提供するか」

優等生の答えは「お客さまが欲しいものを提供する」だと思います。それは一つ間違いのない正解。

 

でもね。

 

正直に言います。わがままなボクはそれでも、作りたいものを作ることへのロマンと情熱を捨てたくないと思っています。もちろんお客さまが欲しがってくれなければ、商品の価値はないことは分かっています。でもすでに顕在化された「お客さまが欲しいもの」だけを作るよりも、まだ見ぬ「お客さまが欲しがるもの」を作り出すことに楽しみを感じるから。「作り手が作りたいものとお客さまが欲しいもの」は相反するものではないってことです。両立するものを作りたいぜ! 失敗を繰り返しながらね。ボク、間違ってますかね?

 

■書いた人:しかけデザイナー・まきやさねゆき(Twitter

 

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